「そろそろ、独り暮らしもできるんじゃないか」
バイトから帰るなり、洗面所で顔を合わせた父がこう言った。唐突だが、恐らくつい先ほどまで母親と、子供の自立について話し合ってでもいたのだろう、居間にゆき母と目を合わせると、案の定そうだった、その目がかすかに笑っている。 つい一年ほど前までは、このように言われることがひどく辛かった。その準備がまだ出来ないのに、飛び込み台に立たされて、背中を押されるような恐ろしさ。ぼくは泣きそうに顔を歪めて、自分のタイミングで飛ばせてくれよ、と何度となく叫んだ。そこには甘えがあったことを自覚している。確かに自分は無力だった、けれどもそれじゃあ父母に支えられているその間、いつかは自分の足で立とうとする意識を抱いていたか。そんなものは欠片もなかった。甘えていた。 いまなら、もう少し現実的に考えられる。若者にとってもっとも貴重なものは、時間である、と痛切に感じているから。過去にさかのぼれるものならば、ああして無為に過した数年間に、ロシア語を学んだり、小説を書いたり、バイトをしたり、いくらでも自身の経験と知識を重ねたい。しかしそれはかなわない。わかっている、だから、青春の残り少ないわずかな時間を、ぼくは大切によく考え使わなくてはならない。 いまはまだ、飛び立つタイミングではないと感じている。もう少し、経験を積み、耐性をつけて、勉強をしたい・・・・・・が、たとえたったいま、親によって強く背中を押されても、ぼくはあんがい独りでやってゆけると思っている。
by apatheia2004
| 2006-05-25 23:42
| 日記・雑記
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